その他(インタビュー等)

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聞き手 安田賢治 氏(株式会社大学通信 常務取締役)

 

52年ぶりの獣医学部に託されたミッションとは

吉川泰弘 学部長

 

52年ぶりに獣医学部が誕生します。どうして今、新しい獣医学部が必要なのでしょうか。

吉川 近年、獣医師はペットの病気の治療だけでなく、社会の根底を支える多様な役割を担うようになってきています。例えば、エボラ出血熱やデング熱、ジカ熱、インフルエンザなど、ほとんどの感染症が動物由来だということが明らかになり、動物からヒトにうつる病気は獣医師が携わるようになりました。これまでの日本の獣医学教育では、対象は動物で完結していましたが、今後はヒトとの関連やヒトへの応用を視野に入れた獣医学教育・研究を行い、現代的なニーズに応えていかなければなりません。

しかし、既存の獣医学教育ではこうしたニーズに対応しづらいという状況があります。また、獣医学部の卒業生は約半数が小動物の臨床に進んでおり、その結果、大動物の診療や公務員として公衆衛生などの分野に携わる獣医師が不足しています。獣医師の総数が足りない訳ではなく、職域に偏りが生じているというのが現実です。こうした偏りを是正し、獣医師法の第一条に書かれているように、農畜水産の産業振興と公衆衛生という獣医への社会的なミッションを理解し、貢献できる人材を社会に送り出していく必要があります。

新しい獣医学部は、岡山ではなく愛媛県今治市に設置されます。四国という地理的な特性を持つ地に誕生します。感染症の初動対応にはゾーニング※1が有効であり、本学はこうした危機管理の学術拠点としても期待されています。また、この環境は危機管理に対応する獣医師の育成にも適していると思います。新しい獣医学教育拠点として、従来の獣医学部とは違った方向から人材を育てたいと考えています。

 

 

どのような獣医学部になるのでしょうか。

 

吉川 日本の獣医学部では2013年度からコア・カリキュラム※2を開始しています。本学では4年次まで、全学生が学ぶ共通科目としてコア・カリキュラムに沿った科目を設定し、残りの約2年間をアドバンスト科目として、専門性を高めていく教育を行います。

5年次からのアドバンスト科目では「ライフサイエンス分野」「公共獣医事分野」「医獣連携獣医分野」 の3分野に分かれて専門性を養うカリキュラムを採用します。従来のカリキュラムから内容が重複している無駄な部分を除き、新たな分野に切り込むことで多様な人材を育成する、画期的なカリキュラムとなっています。各分野の専門家を多数招聘し、公共獣医事あるいは創薬などのライフサイエンス分野を専門とする獣医師や、公衆衛生に携わる公務員、医獣連携獣医師など、高い専門性を持って多方面で活躍できる人材を育成していきます。

一方、獣医師が担う職域が広がる中、獣医師以外の専門家の育成も求められています。国際獣疫事務局(OIE)※3ではベテリナリー・パラプロェッショナル(VPP)※4 の必要性を言及しており、本学でも全国に先駆けてVPPを育成する獣医保健看護学科を設置します。4年間のカリキュラムのうち、2年半を獣医看護の基礎及び専門教育期間とし、残りの約1年半を3分野に分かれたアドバンスト教育により専門性を深めていきます。卒業後は、産業動物や小動物の看護を担う専門家や公務員、実験動物の管理・研究支援、ライフサイエンス系の研究者として活躍してもらいたいと考えています。

 

 

四国に誕生する今治キャンパスについてお聞かせください。

吉川 今治市に設置されるキャンパスは、17万㎡と広大な敷地の中央に7階建ての獣医学部棟を設置します。1階には実験動物センター、マウスやラットなどに加えブタやサル等の実験動物を飼育するスペース、実験室などを整備しています。獣医学の一分野である水産もカバーしています。実験動物センターの一角に魚用の研究槽を2基用意しているほか、愛媛大学の水産研究センターとの協力体制を整えています。

獣医学部棟の5・6階は研究フロアとなります。これまでの研究室は縦割りが主流で、他の領域と連携しづらい雰囲気がありました。そこで、本学ではプロジェクトごとに教員や学生を集めて研究を行えるオープンラボを整えます。大型機器などは全プロジェクトが共通で使用するため、横のつながりも生まれると思います。獣医学教育病院も開設します。

獣医療を含む“ワンメディシン”とは、ヒトの医療は獣医療と一つだという考え方です。本学では愛媛大学の医学部とも連携し、こうしたコンセプトを具現化しつつ、獣医学の研究をヒトの臨床に活かしていきたいと考えています。

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