岩田 恵理教授

研究分野

動物行動学、比較内分泌学

メッセージ

「動物行動学」とは、動物の行動の「理由」と「仕組み」を研究する学問分野です。応用分野として、動物行動治療学があり、教育病院では行動治療科を開設しています。

 本研究室では、環境、特に社会環境が動物の行動に与える影響について研究を行っています。例えば、捕食者の目の前で、隠れもせずにうろうろしていたらたちまち食べられてしまいますし、自分より上位の仲間がいるところで偉そうにしていたら、みんなから「ぼこぼこ」にされ、下手をすると群れを追い出されてしまいます。つまり周りの状況を適確に判断し、状況に応じた行動をすることは、動物たちにとって生きるか死ぬかの大問題なのです。周りの環境をどのように認知し、体内でどのような変化が起こり、最終的にどのような行動として、または体内の変化としてアウトプットがなされるのかに興味を持って研究に取り組んでいます。

研究内容

1.カクレクマノミの社会行動と性決定に関する研究

 カクレクマノミは観賞魚としても一般的な海水魚ですが、非常に複雑な社会行動を持つ魚の一種です。群の中には非常に厳格な社会順位が存在します。社会順位によって、個体の性別までもが決定されるからなのです。つまり、群れの中の社会環境が、行動様式のみならず、内分泌環境を変化させ、個体の身体を変化させる(脳や生殖腺が変化する)のです。カクレクマノミの社会行動の変化が、どのような経路を経て性決定に関与しているのかを調べると同時に、カクレクマノミの認知機能についても研究しています。

沖縄慶良間諸島のカクレクマノミ。1位個体(左側の大きい個体)が雌、2位個体が雄になる。3位以下は性的に未成熟個体として過ごす。

免疫染色によるカクレクマノミ脳視索前野におけるアルギニンバソトシン(AVT)ニューロンの検出

ステロイドホルモン投与により誘導されたカクレクマノミ脳内性転換関連遺伝子の転写活性

 

2.家庭犬の社会行動に関する研究

「犬のほいくえん」で行動観察を行い、家庭犬同士がどのようにコミュニケーションをとっているのかを調べています。家庭犬の間でも、非常に複雑な社会行動が認められます。個体差はありますが、若いころから頻繁にほいくえんに通っていた個体の方が、ソーシャルスキルが高い傾向が認められます。

「犬のほいくえん」での行動観察の様子

ドッグランへ通い始めた時期と行動特性の関係

研究業績

  1. Iwata E, Tanno K, Fujii C, Yamauchi S, Yanagimoto T, Saruwatari T. The use of RNA transcription rates to assess the onset of sexual maturation in the hermaphroditic greeneye Chlorophthalmus albatrossis. DNA Polymorphism.  24: 8-16. 2016.
  2. 岩田惠理. “魚類における社会順位とホルモン”.水澤寛太,矢田崇(編)ホルモンから観た生命現象と進化シリーズ第7巻 生態防御・社会性,裳華房. 191-202. 2016.
  3. Iwata E, Colleye O, Parmentier E. “Clownfishes”. Frederich B, Parmentier E (Ed.) Biology of Damselfishes, CRC Press, pp246-266. 2016.
  4. 岩田惠理 屋内ドッグランにおけるイヌの行動特性 いわき明星大学科学技術学部研究紀要. 28:18-24. 2015.
  5. Iwata E, Taira H, Abe Y. Identification of Two Tentative Strains of European Subspecies of the Eurasian River Otter Lutra lutra lutra (Linnaeus, 1758) from the Partial Mitochondrial Cytochrome b Gene. Japanese Journal of Zoo and Wildlife Medicine. 19: 137-142. 2014.
  6. Iwata E, Manbo J. Territorial behaviour reflects sexual status in groups of false clown anemonefish (Amphiprion ocellaris) under laboratory conditions. Acta Ethologica. 16: 96-103. 2013.
  7. Iwata E, Mikami K, Manbo J, Moriya-Ito K, Sasaki H. Social interaction influences blood cortisol values and brain aromatase genes in the protandrous false clown anemonefish Amphiprion ocellaris Zool. Sci. 29: 849-855. 2012.

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