衛生学講座

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 衛生 (hygiene) とは、Hygieia (ギリシア神話に登場する健康の女神) が語源になっているといいます。これを日本語に訳する際に用いられた言葉が衛生であり、生命や生活 (生) を守る (衛)、いいかえれば健康を守るということを意味しています。この衛生に関する学問である衛生学は、人間の個人の健康を守るための学問として発展してきました。獣医学の領域では、動物の個体の健康も対象になっています。さて、この衛生学の言葉の前に公衆という言葉がついた公衆衛生学 (public health) という学問もあります。公衆衛生学は、主に人間や動物の集団を対象とし、集団における疾病を予防して、それによって寿命を延ばし、身体的および精神的健康の増進をはかる科学です。
 私たちの公共獣医事分野衛生学講座では、動物や人間の健康を守るための教育 (講義や演習、実習) を担当し、また、この領域の研究を行っています。動物衛生学関連では、産業動物などの疾病予防や健康増進を通して畜産経営の高度化や人々の健康にも貢献することや、伴侶動物や展示動物などの飼養・管理衛生について取り扱います。また、動物の遺伝的改良理論や遺伝性疾患の発症メカニズムも取り扱います。野生動物の管理や野生動物由来人獣共通感染症の伝播様式の解明およびそのコントロールについての講義もあります。人々の健康に関連するものでは、食品の衛生管理、環境の管理、毒性、公衆衛生学関連の法規や行政組織、疾病予防や健康増進、国民衛生などについて取り扱います。また、健康管理の研究手法である疫学や統計学についても担当しています。

 衛生学講座には現在、動物衛生学、遺伝学、疫学、食品衛生学、公衆衛生学、衛生化学、野生動物学の7つの部門が設けられています。それぞれの部門では、以下の研究と教育を行っています。

動物衛生学

人間の健康や動物性食糧を安全で安定的に生産・供給するために、産業動物や野生動物の疾病の監視と管理、食品安全の保証、衛生管理と疾病の予防および環境保護が重要です。
 近年、畜産農家の集約化および大規模化に伴い、牛伝染性リンパ腫や乳房炎など様々な慢性疾病の発生増加により、乳用牛や肉用牛の生産現場では、空胎期間の延長、受胎率の低下が深刻な問題となっており、畜産物の生産性を悪化させるだけでなく、酪農経営を圧迫する要因ともなっています。また、鼻疽などの人獣共通感染症の再出現が起っています。そのため、飼養管理を徹底し、家畜の疾病を未然に防ぐことが非常に大事です。
 近代的家畜生産において、限られた数の種畜の精液を集中的に使うことで近親交配が頻繁となり、遺伝性疾患の発生や繁殖障害が起こりやすくなっています。また、家畜の育種改良において、生産性のみを重視した結果、自然環境への適応性、耐暑性、耐寒性および抗病性に優れている在来家畜が注目されなくなり、他の品種による交雑や飼育中止などにより、在来家畜の数および集団の規模が日々に減少し、その結果近親交配が起りやすくなり、遺伝的多様性の維持にも影響しています。
 本部門では、在来家畜の遺伝学的研究により、在来家畜の遺伝的多様性の維持や在来家畜の文化的、経済的価値の維持、持続可能な農業の推進に貢献することを目指しています。また、牛伝染性リンパ腫ウイルスの清浄化対策などにより、肉牛農家および酪農家の生産性を向上させ、牛の健康を維持し、衛生を向上させることを目指しています。さらに、人獣共通感染症を引き起こすウマ鼻疽菌などに対する簡易診断法を開発し、当該病気を早期に発見し、感染拡大を防止することも目指しています。

動物衛生学部門 教員紹介

遺伝学

21世紀に入り、犬や猫などの伴侶動物、牛や豚などの主要家畜の遺伝暗号が次々と解明されています。今、獣医療は遺伝情報を利用して治療を行う時代に突入しており、遺伝学は「次世代の獣医療のために欠かせない学問領域」といえます。遺伝学部門が行っている研究活動と担当する遺伝育種学や遺伝子工学の講義を通じて、遺伝の実態や仕組みだけでなく、獣医療や家畜の改良のために遺伝情報をどのように活かしていくのかを学んでいきます。

遺伝学部門 教員紹介

疫学

疫学は、人間あるいは動物の集団に出現する健康関連の様々な事象の頻度と分布、それらに影響を与える要因を明らかにして、健康関連の諸問題に対する有効な対策の樹立に貢献する科学であるといえます。疫学部門では、近年問題となっている薬剤耐性菌について家畜や野生動物を対象として研究しています。また、寄生虫症に関する疫学的な研究と動物用医薬品についての薬剤疫学の研究も展開し、さらにインターネット上に埋もれているデータをもとに動物の感染症情報を記述疫学的に可視化し、発信するという取り組みも行っています。講義等としては「獣医疫学」「国際動物疾病学」「獣医臨床疫学演習」とさらに生物学の基礎的知識を提供する「基盤生物学」を担当しています。

疫学部門 教員紹介

食品衛生学

細菌、ウイルス、プリオン、毒素などを対象に、食中毒の病因物質を高感度に検出し、無害化する技術の開発に取り組んでいます。また、「食品衛生学」「食品衛生学実習」「レギュラトリー科学」「獣医キャリアスキルアップ研修」の科目も担当しています。

食品衛生学部門 教員紹介

公衆衛生学

公衆衛生は、組織化された地域社会の努力を通じて、疾病の予防や寿命延伸をはかる科学であり技術です。社会に直結した部分が多く国をはじめ行政でも公衆衛生的アプローチが実施されていて、毎日のようにニュース等で目にします。
獣医公衆衛生学とは公衆衛生学(総論)・食品衛生学・人獣共通感染症学・環境衛生学からなる学問ですが、公衆衛生学部門ではこのうち公衆衛生学と環境衛生学を主に研究しています。公衆衛生学とは集団レベルの努力で健康増進を目指す学問であるため、疫学統計学的な手法を用いることが多いです。その1つとして人間を対象とした疫学研究も行っています。
 講義等としては、基盤教育科目として「情報リテラシー」、専門科目として「生物統計」、「獣医公衆衛生学総論」、「獣医公衆衛生学実習」、「環境衛生学」、「公衆衛生学B」、5、6年時に実施されるより高度で専門的なアドバンスト科目として「公共獣医事情報解析実習」、「セキュリティー学」、「グローバル食品管理科学」を科目責任者として担当しています。

公衆衛生学部門 教員紹介

衛生化学

衛生化学部門では、動物および人間の健康と福祉を守るために必要な化学物質についての知識を提供することを目的としています。本部門では、食品安全学、生態毒性学、臨床中毒学など、多岐にわたる学問領域と関連付けた教育研究に取り組んでいます。特に、学部教育では、獣医学生に対して獣医毒性学の講義と実習を行っています。

衛生化学部門 教員紹介

野生動物学

野生動物学は、野生動物の生体機構のしくみを深く理解しながら、生態系のバランスを崩さぬように環境を健全な形で保全していく知恵や知識を学ぶ学問です。本部門では、特に野生動物の機能と形態、進化ついて、哺乳類だけでなく魚類や両生類、爬虫類、鳥類まで幅広い動物を対象に、肉眼解剖学的手法を用いた研究を行っています。また、ロードキル個体や鯨類のストランディング個体に関する調査を行うことにより、野生動物を通して環境の変移変動、野生動物の集団遺伝学の研究も行っています。

野生動物学部門 教員紹介

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